トップ現代中国語の歴史(2) 英語のシンプルさを借用

現代中国語の歴史(2) 英語のシンプルさを借用

1:「S+V+O」構造

英語の「S+V+O」構造を参考にして見直された現代中国語ですが、その表現のなかで最も典型的なのが「我爱你(wǒ ài nǐ)」です。

これは英語の”I love you.”とまったく同じ意味で、英語の”I love you.”がそっくりそのまま転用されたものでした。

I love you

このようなシンプルな言い方は、かつての古典漢文にはまったく存在していなかった表現でした。

中国版「言文一致運動」において、この「我爱你」は小説や詩、戯曲などのあらゆる表現分野で、堰を切ったように使われ始めました。

もちろん、一般の人たちが愛をささやき合うときにも、当然のようにこの表現が好んで使われるようになったのは言うまでもありません。

まさに「我爱你」こそ、中国語の現代版普及を告げる丘比特(qiū bǐtè)(キューピッド)」の笛の音だったのでしょう。(この頃すでにこのような当て字が多用されていました)

2:人称代名詞が1対1で対応する中国語

もう1つ、中国語が英語から影響を受けた点は、人称代名詞を1対1で対応するように設定したことでした。

古典の漢文では、人称代名詞がずいぶんと曖昧でした。

高校の漢文テストなどでは、この曖昧な部分を出題してその主語を答えさせるという、嫌らしい問題が多かったのを覚えています。

しかし、現代中国語の人称代名詞は、英語と同じように、次のような単語だけなのです。

単数複数
Iwe我们wǒmen
youyou你们nǐmen
hethey他们tāmen
shethey她们tāmen

このように、”I”に対応する言葉は、現代中国語の場合、「」しかありません。その他の人称代名詞もすべて1対1で対応しています。

日本語のように豊富な(しかし日本語を学ぶ外国人にとっては実に煩雑な)バリエーションはないのです。

つまり、日本語の中にある、
「わたし」「ぼく」「おれ」「わし」「わたくし」「あたし」「あたい」「あちき」「うち」「わて」「おら」「おいどん」……など、いくつもある一人称単数名詞を場面によって使い分けるというような、煩雑な手続きはまったく必要ないのです。

「我」1つで自分をあらわす用法は全て。英語の“I”と同じですね。
この点では、現代中国語は日本語よりもはるかにシンプルな言葉だと言えると思います。

現代中国語が英語から採り入れたのは、まさにそのシンプルさだったわけです。
 

 

3:複数形を作らない中国語

中国語と日本語とは、「S+V+O」か「S+O+V」かの違いはあっても、その他の点では、中国語と英語の場合よりもはるかに近しい関係にあると言えます。

たとえば人称代名詞や人物をあらわす名詞以外、現代中国語は英語のような複数形をつくることはありません。

つまり「私たち」や「学生たち」はあっても、「コップたち」「机たち」「動物たち」などという中国語は無いのです。

欧米人にとって、物の数を表現上で考慮しない日本人や中国人の発想は、本当に不思議でならないようです。

ときには、「どうして単数と複数を区別しないのですか」と非難する雰囲気で質問してくる人もいますが、「この国ではそれで通っているんだから、しょうがないじゃないの。ほっといてください!」と言うしかありません。

日本人だって中国人だって、学術論文などで単数か複数かをきちんと表記しなければならない必要なときは、明確に区別しているのですから問題はありません。

4:人称の変化がない中国語

また、I, my, mehe, his, him のような人称の変化も、現代中国語は採り入れませんでした。たとえば、レストランで何かをオーダーするときに使う“Give me ~”という表現も、中国語では「给我~(gěi wǒ)」です。

」は変化しません。

現代中国語が英語から人称の変化を採用しなかったのは、それが従来の庶民の言語習慣に反したからです。

これに対し日本語では、「私に」というように人称代名詞に助詞を補うことが、英語の人称変化への対応表現となっています。いわゆる「てにをは」の用法ですね。

しかし、中国語の「我」は、それ自体が変化することもなく、また、日本語のように助詞を補う必要もありません。どんなセンテンスにおいても原型のまま使えばいいのです。

I, my, me を区別するのは、そのセンテンスでの「」の語順だけ。
この点でも、現代中国語は日本語よりもシンプルな言語だと言えるでしょう。

とにかく、中国語の学習を続けていくほど、中国語は「シンプルでわかりやすいなぁ!」と感じたものです。結局、1年も経たずに日常会話ができるようになり、英語の習得期間とはまるで違う、短い期間で不自由なく話せるようになったのでした。

中国語の文法は本当にシンプルで、同じ漢字に慣れている日本人にとっては、とても取り組み易い言語だと思います。

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